コラム「木谷高明の視点」
第53回 ブシロードの18年と次代への取り組み
2025年06月06日
木谷です。2025年6月6日となりました。本日、私は65歳の誕生日を迎えました。65歳を過ぎても働かせていただくことに感謝する一方で、最近は体力の低下を実感しています。人生の第4コーナーを回りましたから、ここからはエクストラターンです。あと何周回りますか、と自分に問いかけています。
65歳になったことで、引退が視野に入ってきました。それが5年後になるか10年後になるかはまだはっきりとは決められませんが、10年後より先はないでしょう。現場で指揮を執るのもあと3〜5年だと考えています。
ブシロードでの歳月を思い返すと、よくここまで来たなという気持ちと、18年もの時間をかけてまだこの程度かという気持ちの両方が混在しています。自分自身についても、自分を褒めてあげたい気持ちと、18年かけてやっとここか、まだまだだよ、という2つの気持ちがせめぎあっています。
ただ、客観的に見たら、ブシロードはそこそこいいポジションを築けたかなという思いもあります。
いくつかの有力な自社IPを保有できていますし、企業規模もまずまずの大きさまで拡大できました。現状のブシロードより小さいサイズになってしまうと、人材の確保が難しくなります。10年前にブシロードを上場させようと決意した理由の1つが、大きなステージを用意できる会社に変わる、ということでしたから。エンタメの会社は、社員みんなが活躍できるステージを用意しなくてはダメなんです。
◆2回の危機を乗り越えたブシロードの18年
改めてブシロードの18年を振り返ると、2回の危機がありました。
1回目の危機は、東日本大震災です。
「カードファイト!! ヴァンガード」のブースターパック第1弾「騎士王降臨」の発売日は、2011年3月12日。震災の翌日でした。先に発売していた構築済みデッキがよく売れて、さあこれからだというときに、講習会や大会はすべて中止。ブシロード初の完全オリジナルカードゲームは、苦難に満ちた船出でした。1か月後には私自身、被災地を訪れましたが、そのとき目にした光景はいまでも忘れられません。
2回目の危機は、皆さん記憶に新しいであろう新型コロナウイルスです。
ブシロードはコンテンツのほとんどがライブエンターテイメントに紐づいていますから、実に堪えました。ただ、コロナ禍があったからこそ、カードゲーム、特に「ヴァイスシュヴァルツ」に力を入れるしかないとアクセルを踏み直すことができたのも事実です。なので悪いことだけではなかったかな、とも思っています。
コロナ禍を乗り越え、ブシロードのライブエンターテイメントはここにきて花開きました。音楽については、おかげさまでコロナ禍前の観客動員数を上回ることができました。
特に「バンドリ!」の貢献は大きく、7つものリアルバンドが現在進行形で活動中なのが効いています。毎月のようにライブが開催されるので、TVアニメの放送がない期間も容易に埋めることができている。文字通りの「ライブメディアミックス」を実現できています。
TVアニメを取り巻く環境はこの10年で大きく様変わりしました。10年前までは、アニメの放送が終わって、評判がよかったら「じゃあ来年2期やるか!」という感じでした。
でもいまは、アニメスタジオの制作の枠が取れない。取れるのは早くて3年後です。そうなると、せっかく盛り上がった作品でも、2期が始まるまでの間、話題をつなげません。
だから、オリジナル作品よりも大手出版社の原作がある作品が重宝されるんですね。原作の連載が話題をつないでくれますから。
オリジナルのアニメをヒットさせるのが難しい時代になったと感じています。
◆次代につなぐ3つの新規IP
ブシロードに話を戻しましょう。先日、業績予想の上方修正を発表できました。ブシロードのビジネスはこのところ非常に順調に進んでいます。
まだつぼみのところもありますが、ブシロードグループの各部門が総じて開花期を迎えています。
あえて柱を挙げると、カードゲームと音楽とMD(マーチャンダイジング)の3本ということになりますが、一部の部門だけが牽引している状況ではありません。自社IPの比率が高くなってきているのがうれしい傾向です。
グループ全体が、2027年のブシロード設立20周年に向けて走り出しています。2027年5月の20周年がひとつの区切りで、次は区切りは2030年でしょうか。この2〜5年の中期的なスパンでは、次の3つのことに取り組んでいきます。
1つ目は、もう一度「カードゲーム世界一」を目指す。改めて高い目標を掲げることで、順調なカードゲーム事業の成長速度をさらに加速させたいです。
2つ目は、自社IPをもっともっと活性化させて、ビジネスの中心に持ってくる。後述しますが、これについては私自身も新規IPの創出に関わります。
3つ目は、やっぱり海外展開です。国際情勢の変動が激しいので、日本に近い国からやっていきます。もちろん一番力を入れるのは日本ですが、次いで東アジア、東南アジア、そしてオセアニアといった順にブシロードのコンテンツを広げていきます。
さて2つ目に挙げた自社IPですが、私自身の発案で、オリジナル作品を3つ作ります。作品には、「プロジェクト原案」という形で関わるつもりです。
実は、2つの作品はすでに企画が進んでいます。最後の1つはまだアイデアすらありません。それでもこれを3つともヒットさせて、そのうち1つは大ヒットに持っていきたいと考えています。
しっかりとブシロードの自社IPの礎を作って、次代につなげたいのです。
ブシロードは世代を超えて、喜びと感動を提供し続けたいと思っています。引き続き、応援のほどよろしくお願いいたします。