コラム「木谷高明の視点」

番外編 安い日本を救う5つの提言

2024年07月17日

木谷です。前回のコラムの冒頭で、「客観的な数値の上では日本経済は30年にわたる停滞から脱しつつある」と書きました。ですが、日本の実質賃金は下がり続けており、日本円の価値を表す実質実効為替レートも過去最低を記録。国民生活は苦しい状況が続いています。 

要は、国民は物価高と円安に苦しめられているのです。そして、その打開策が一向に見えてこない。すでに一部では労働力や資金の海外流出が始まりつつあり、いい流れとは言えません。

そこで今回は番外編として、安い円に苦しむ日本を救うための方策として、提言を5つ述べたいと思います。

なお、私自身は、日本の政府債務の大きさが日米の金利差を引き起こし、円安の根本的な原因になっていると考えています。ですので、財政を悪化させるような施策は提言の中には入れていません。様々な意見があるところだと思いますが、この点をご承知の上、読み進めていただければと思います。

 

◆木谷流 5つの提言

1. 為替連動型「入国税」の新設 

現行の一律1,000円の出国税に替えて、日本を訪れる外国人から入国の際に「入国税」を徴収します。入国税の税額は、為替レートに連動させます。
具体的な税額は、たとえば1ドルのレートが130円未満なら0円、130円台なら1,000円、140円台で3,000円、150円台で6,000円、160円台で10,000円、といった具合でどうでしょうか。2024年の訪日客の数は約3,300万人と見込まれているので、仮に160円台の為替水準が続いたとしたら、1年間で3,000億円以上の税収になります。もちろん徴税コストもかかりますが、収入と比べれば2桁小さい金額で収まると思います。
ではもし1ドルが170円になったら? その場合は入国税も15,000円くらいになるでしょうか。一見すると高額ですが、それでも、海外のお客さんは円安にメリットを感じて日本を訪れているわけで、買い物も食事も、日本国内のすべてが安く済ませられるのですから、入国税もさして高いとは感じないはずです。
入国税で得た収入は、訪日外国人の数をさらに増やすために使うのがいいと思います。外国人客が外国人客を呼ぶ、いい循環が期待できます。特に、これは私の持論ですが、若いうちから日本語を学び、帰国後も日本文化の伝道師となってくれる留学生はとても貴重な存在です。ですので、留学生の受け入れ人数を増やすための補助金として、日本の大学や専門学校などに交付するのはどうでしょう。留学生に補助金を出すのではなく、留学生を受け入れる日本の学校に補助金を出すというのがポイントです。留学生は少なくとも在学中は日本で生活するわけですから、短期的に円の需要を高める効果も見込めます。長期的な視点では、日本の理解者を世界中に送り出すわけですから、日本の外交の安定や安全保障にも資することだと考えます。この資金は一部日本人の海外留学の補助に使うのも有りだと思います。

余談になりますが、これは日本の教育改革にもつながる話です。優秀な人材は引く手あまたで、もはや国籍は関係ありません。世界ではこれから留学生の争奪合戦が始まります。そんな中で、減っていくことがわかっている日本人学生を国内の教育機関どうしで奪い合っているようではお先真っ暗です。優秀な人材は、国境を越えて世界中から引っ張ってこなければいけないのです。

2. 外国子会社からの配当金への無課税化と、設備投資減税の実施
~国内景気浮揚と輸出力UP~

グローバル化の時代ですから、大企業の多くは海外に現地法人を設立しています。その海外にある子会社が稼いだ利益が、日本の親会社に還流されずに海外に積み上がったままになっているという問題があります。
日本の親会社に利益を還流させるときには、海外子会社から日本の親会社に対して配当金を出すという手法が一般的には取られます。この海外子会社からの配当金には、現状では益金不算入の割合が95%、つまり5%に相当する額に税金が課せられますが、これを5年間程度の期限を設けて時限的に無税にします。同時に、企業の設備投資についても減税をして、日本に戻したお金が設備投資に回るようにします。
ただし条件もつけます。それは、海外子会社からの配当金を必ず日本円で支払うことです。経常収支が黒字でも円安が進んでしまうのは、海外で稼いだお金が外貨のまま貯まっているからです。海外子会社が現地で貯めた大量の外貨が円に換えられて日本の設備投資に充てられれば、円安の緩和に機能するとともに、国内の景気浮揚にも寄与することでしょう。輸出力もUPして結果的に税収も増えると思います。

 

3. 消費税率を5%、10%、20%の3段階に

消費税の税率を3段階に区分し直します。飲食料品は5%、飲食料品以外は今までのどおり10%、この2段階に加え「ぜいたく品」というカテゴリを新設し、ぜいたく品の税率は20%にします。
飲食料品の税率は現状の8%から5%に下げますが、これが最大の目玉で物価高への対策となります。そうすると下げた3%分の税収が不足するので、ぜいたく品の税率20%でそれを補います。どこからをぜいたく品とするかの線引きは大変な議論になるかと思いますし、様々な抵抗も予想されます。それでもぜいたく品の消費税率アップは、年間23兆円あまりが見込まれている消費税の税収を守るために有効ですし、所得税の増税や資産への課税が強化されることに比べれば、富裕層にも優しい施策です。初めからお金を取られるより、お金を使って税金を払った方が納得感は大きいはずです。富裕層にはどんどんお金を使ってもらいましょう。そもそも3,000万円のフェラーリを買う人は、それが3,300万円であろうと3,600万円であろうと買うんです。ぜいたく品候補としては、ブランド品、億ションなどです。

ところで、政党の中には消費税率を一律で5%にしろだとか廃止にしろなどと主張しているところもありますが、それは無責任な提案だと思います。前述のとおり年間23兆円を超える消費税の税収は巨大で貴重な財源です。ただ単に消費税率を下げるだけでは、その穴埋めに政府はまた赤字国債を発行することになり、政府債務の増大が円安要因となり、結局は物価高を招きます。財政の放漫化を前提とした消費税改革案は、国民生活をさらに痛めつけるものだと考えます。

 

4. 日本人の英語力向上のための改革~日常生活の中で英語力UP~

4つ目はソフト面の改革です。訪日外国人の数をもっと増やし、インバウンドをさらに盛り上げるために、受け入れる側である日本人の英語力を向上させるべきです。

その方策のひとつとして、大学入試の英語の試験内容に、リスニングとスピーキングを義務付けます。大学入試共通テストではすでにリスニングが実施されているものの、スピーキングは見送られているという経緯もあるので、まずはリスニングだけでもいいので試験内容に組み込むべきだと思います。私立大学も含め、理系文系問わずすべての学部で必須となれば、受験生は必死で勉強しますので、英語力は必ず向上します。

またもうひとつの方策として、社会全体で「カタカナ英語を減らす」というのはどうでしょう。カタカナ英語は便利ですが、英語への理解を阻害し、外国人が暮らしにくくなってしまうという負の効果もあると思います。たとえば日本国内にある「コーヒー」という看板がすべて「coffee」に置き換わったらどうでしょうか。それだけで外国人にはずいぶん優しくなりますし、日本人の英語への理解も自然と深まっていくことでしょう。

すでに日本語化されている「野球」をわざわざ「baseball」と書く必要はありませんが、「テニス」は「tennis」、「バスケットボール」は「basketball」と書くことで、少なくとも英語への拒否感は薄れていきます。
和製英語も英語の学習やコミュニケーションを妨げる原因になっていると思います。「ノートパソコン」を「ラップトップPC(laptop PC)」に、「アルバイト」を「パートタイム(part-time job)」と書けば、わざわざ英語として覚えなおす必要もなくなります。

すぐに効果が出る施策ではありませんが、まずは推奨するところから始めて、期間を設けて実施していけば、少しずつでも確実に日本社会に英語を浸透させていくことができると思います。

 
5. 日本発エンターテイメントの振興

ゲームやアニメ、マンガといった日本発のエンターテイメントに触れた多くの外国人が、日本に強い憧れを持って来日し、インバウンドの拡大において大きな役割を果たしていることはご存じのことと思います。
日本のエンターテイメントは、世界中に日本ファンを生み出し、インバウンドと輸出の双方を拡大させています。インバウンドと輸出の拡大は、円高効果をもたらします。
大きな言い方になりますが、日本のエンターテイメントは、日本の国力を高めています。日本の国力を高めることは、国民生活の安定につながります。
我田引水の感が出てしまうのであまり具体的なことは申しませんが、官民を挙げて、日本発のエンターテイメントを世界に向けてさらに押し広げていくべきだと考えます。

 

◆日本のソフトパワーを世界に

以上が5つの提言です。いかがでしょうか。多くの異論反論があろうかと思いますが、日本のこれからを考える一助にしていただければ幸いです。 

私たちブシロードとしては、引き続き日本発のエンターテイメントを世界に届けることで、日本と世界のお客様に喜んでいただきつつ日本経済に貢献していきたいと考えています。