コラム「木谷高明の視点」

第45回 流行が可視化された世界でメガヒットを目指す

2021年06月02日

 木谷です。4月に発売された新シリーズ『カードファイト!! ヴァンガード overDress 』の5種のスタートデッキが好調です。1つ333 円、3つ買っても999 円という話題性もあり順調な滑り出しとなりました。想像していたほどのロケットスタートとはなりませんでしたが、順調に離陸したという感触はあります。

 今回発売された低価格の5種のスタートデッキと、ブースターパック第1弾『五大世紀の黎明』は今後1年を通して売れていく定番商品となりそうです。今後、回帰ユーザーがどこまで戻ってきてくれるかは、まだ未知数なところではありますが、今のところ、アニメのキャラクターの魅力もあって、新たな『ヴァンガード』のカラーを出せていると思います。

 これまでに一度でもプレイしたことがある人を、すべて回帰組と呼ぶのであれば、私は今回、スタートデッキを購入していただいたユーザーの7 割は回帰組だと考えています。もちろん回帰といっても、じつは遊んでいたのは5年以上前という人もいるはずですから、もうほとんど新規に近い。基礎のルールだけを知っていて「今はこんなふうになっているんだ!」と驚く方も多いようです。現場の声を聞いているとそういった方々が戻ってきているという空気を感じます。

 より深く、新シリーズの世界観を楽しむための小説『The Elderly~伝説との邂逅~』を公式読み物ページに公開する新しい試みも始まりましたし、5月22日に発売されたタイトルブースター第1弾の「刀剣乱舞-ONLINE- 2021」も好評です。

  5月12日の戦略発表会でも触れさせていただきましたが、今後もコラボを含め様々な展開を予定していますので楽しみにしていてください。

 『ヴァイスシュヴァルツ』(以下WS)も好調です。5月14日に発売された「エクストラブースター デート・ア・バレット」は日本語版の海外での初回受注金額として過去最大を更新しました。

 理由としては、やはり日本アニメの海外配信のインフラが整ったことが大きい。動画配信サイトやサブスクサービスによって、世界中で同時に日本のアニメを見ることができる時代になりました。

 英語版の「デート・ア・ライブ」もリピートがすでにかなり来ています。リピート分も加えると英語版で好調な売上を記録した「ソードアート・オインライン」「進撃の巨人」を超えて過去最高の販売数になる見込みです。

 今年に入り、特に東アジアを中心に大きく売上を伸ばしていたのですが、ここに来て北米市場でもヒットの兆しが見えてきました。現状、英語版の売上は年間2億円ほどなのですが、私は近い将来、この10倍になると見ています。

 世界中で日本アニメの配信は観られているのですが、グッズはほとんど販売されていないのが現状です。たとえばグッドスマイルカンパニーさんのねんどろいどなども海外で好調ですが、日本よりもライトなファンも購入している気がしています。つまり、公式グッズとしての側面が大きい。『WS』もアニメのファンにグッズとして認知されれば一気にシェアを拡大できると考えています。

 カードの真贋をチェックする世界最大のグレーディング鑑定サービスPSAの鑑定可能な日本のカードゲームに、『ポケモンカードゲーム』『遊戯王』『デュエル・マスターズ』『マジック:ザ・ギャザリング』に次いで、この春『WS』も加わることが決まりました。これも『WS』がグローバルなメガプラットフォームになるきっかけになりそうです。

 春以降の参戦ラインナップも海外展開を視野に入れています。「MARVEL」、そして「ホロライブプロダクション」が『Reバース for you』に続いて『WS』へも参戦します。この2タイトルは海外でも大きな話題になりそうです。今後は日本のみならず世界規模でのヒットを目指していく予定です。

 国内でも夏にかけて、販促営業活動にさらに力を入れていく予定です。やはり海外と比べると、日本は店舗での売り場面積がせまいと感じています。それに『WS』はシングルコーナーを作りづらい。ある意味、仕方のないことなのですが、その部分をなんとかするために、同じタイトルのグッズまで取り扱うような『WS』専門店があってもいいかなと思っています。企画や陳列のアイデアを専門店が示すことで、全国のカードショップのイベントや販売コーナー作りのきっかけになるはずです。これはどこかの会社と組んでぜひ実現したいと思っています。

 ここ最近、大ヒットの構造が変化してきているように感じています。多数の中堅ヒットの上にいくつかの大ヒットがあり、さらに大ヒットから突き抜けた不動の位置に君臨するメガIPが存在しています。そして、それぞれが同時に成立している。

 これまでも伝統的な「ポケモン」や「ガンダム」、さらに「アンパンマン」は継続して昔からとんでもない額を稼ぎ続けている。つまり、IPとして見ると、いくつかの年間1000億円を超える売上のあるメガIPがあり、その下に、それ以外の20 ~ 100億円ほどの中堅IPが乱立しています。

 メガIPまで上り詰めないまでも、この数年で、大ヒットは続けて誕生しています。最近ですとアプリゲームの『ウマ娘 プリティーダービー』や「鬼滅の刃」「呪術廻戦」といった週刊少年ジャンプ発のタイトルが大ヒットに値するコンテンツといえます。

 数年前と違うのは、それらの大ヒットが同時に存在しているということです。私はこれを「流行の可視化」だと認識しています。

 時代性と言ってしまえばそれまでなのですが、世間は今、やたらと皆が同じ方向に向かって盛り上がる傾向にあります。例えば『ウマ娘』が流行ったらVTuberは、こぞってプレイ動画を上げる。そこから先の波及の仕方が明らかに偏ってきています。

 たとえばテレビの番組欄は見ていても、どの番組が高視聴率なのかはわかりませんでしたが動画配信サイトでは観られている動画は上位に来て目立つように表示される。そして上位のものはさらに観られて…というサイクルが用意されています。
そうすると基礎票を持っている作品や人物が有利になる。逆にオリジナルでのヒットは非常に難しいと言えます。強いものがより強くなる仕組みが常識化してしまっているのが現状です。

 流行がわかりやすく可視化された結果、世間のすべてが流行に合わせて動くようになってきました。SNSやウェブニュースだけでなく、テレビでも数年前と比べて流行りの事柄が取り上げられる機会が増えました。そして販売店では次の流行りを見据えた、話題の商品のみが陳列されていく。誰にでもその先が容易に想像できてしまうため、それが新たな大ヒットへとつながっていくのです。

 その波にうまく乗りさらに突き抜けることができればメガIPになることができます。ただこれはなかなか難しい。最近だと「エヴァンゲリオン」は大ヒットしたものの、もう一歩、突き抜けることができなかったという印象を受けました。客層が狭かったことと、アニメ映画のみの展開だったことでメガIPにあと一歩届かなかった。
強力な武器は1つでも良いのですが、やはり他にも攻め手がいくつかなければメガIPとなるのは難しいと感じました。

 まだ日本はしばらく我慢の時が続きますが、我々は着々と武器を蓄えています。近い将来、メガIPを必ず生み出してみせます。これからのブシロードにご期待ください!