コラム「木谷高明の視点」

第46回 今の時代だからこそ可能な新たなビジネス

2022年01月07日

今回の記事は、カードゲーマーvol.53(2020年7月発売)掲載のコラムに編集を加えたものとなります。

 木谷です。6月19日、ブシロードの代表取締役会長に就任しました。2017年10月にブシロード社長を退任して以降、コンテンツ作りの最前線へ身を置いて新たなIP作りに注力してきましたが、代表権を再び取得して代表取締役に復帰しました。

 今回の人事は、新型コロナウイルス第2波の流行を想定した長期的な対策準備の一環でもあります。収束の見通しの立たない日本の現状には、大きなピンチであると同時に、ある意味、大きなビジネスチャンスが現れたという印象を抱いています。ピンチとチャンスは表裏一体なことが多い。このような変化が激しい時期にはグループ全体に迅速な判断、決断が必要になります。今回の就任はそのためのトップダウンへの切り替えです。

 橋本社長との役割分担はいままでどおり行ない、橋本には管理や海外を中心に任せて、私がコンテンツ全般と、さらにプロモーションを担当します。プロモーションに関しては媒体への露出を増やし、情報発信力を高めていきます。

 いま、先の見えない状況の中、組織も個人も“この先どうなるのだろう?”“一体どうすべきか?”ということですごく悩んでいる。その全体の意識に対して“こんな考えがあります”“ウチはこんな見方をしています”とわかりやすく情報を発信して、できること、やれることを伝えていく。そういったアプローチに力を入れていくことが重要だと考えています。

 今の時代だからこそ可能な、新たなビジネスもすでに模索中です。サザンオールスターズが6月25日に開催した無観客ライブは18万枚、約6億5000万円のチケットを売上げたことが話題となりました。これからの音楽業界はオンラインライブで大きく変化するはずです。

 これまでのライブはチケット代で製作費をまかない、物販と映像自体の販売でなんとか儲けを出すという方法が主流でした。しかし、配信で来場者の何倍もの人が観てくれれば収益性が全く変わってくる。
20~30年前の欧米のスポーツビジネス界ではペイ・パー・ビューやテレビ放映権料の高騰によって市場規模が一気に拡大しました。それと同じことが日本の音楽業界で起こる可能性があります。オンラインライブの放送権料によって音楽ビジネスの根本が変わる気がしています。

 この流れは音楽ビジネスだけにとどまらず、あらゆるライブエンターテインメントを変えるはずです。例えば、観劇は基本的にこれまで“観に行かないといけないもの”でしたが、すでにそうではなくなり始めつつある。これまで、舞台のライブ・ビューイングは、もし行ったとしても最終日の公演のみで、全公演を配信することはありませんでした。しかし今後は需要が大きい舞台であれば毎回配信が当たり前になるでしょう。舞台は他のエンタメと比べてもリピート需要が高く、同じ公演を一度だけではなく何度も通って楽しみたいというファンが多い。全公演配信が主流になれば、全9公演あれば、現地で2回、オンラインで7回、結局、すべて観てしまったという人も出てくるはずです。

 「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」は7月12日にオンライン公演を開催しました。「BanG Dream!(バンドリ!)」プロジェクト発のリアルバンド、RAISE A SUILENのメンバーによるステージも、定点カメラによるインターネット配信と千秋楽公演のライブ・ビューイングを行なっています。チケット価格をライブ・ビューイングの半額以下とかなり安く設定したことも好評でした。
9月に行なわれる舞台『アサルトリリィ The Fateful Gift』では全公演で有料配信を実施することも決定しました。舞台の配信にはさらに力を入れていく予定です。

 カードゲームに関しては海外が好調です。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて2か月間販売を中断していた英語版『カードファイト!! ヴァンガード』は、販売再開後の売上は1割程度しか落ちませんでした。これは、4月から『ヴァンガード ZERO』の英語版をリリースした効果です。ゲームアプリがファンの関心をつなぎとめてくれました。日本で暮らしていると、本当に買える状態なのか?とも思うのですが実際に売れている。1日あたりの利用者数と売上は日本の倍以上になっています。アナログカードゲームとデジタルカードゲームは、同じカードゲームでもマーケットを奪い合うことはなく、むしろ相乗効果が生まれる。今後、オリジナルカードゲームはデジタル化が必須になっていくと見ています。

 国内に関しては『フューチャーカード バディファイト』が8月11日発売のスペシャルパックをもって商品展開を終了することが決まりました。本当に残念です。
『ヴァンガード』と比べても、『バディファイト』は、より純粋に子供にのみにターゲットを絞った作品でした。ユーザーからは“木谷は『バディファイト』のことをぜんぜんつぶやかない”とよく言われていましたが、実のところ非常に思い入れがあるタイトルです。
『バディファイト』の攻めることを重視したアクティブなゲーム性は、学校の休み時間中に終われるくらいのスピード感を目指して試合時間の短縮もかなり意識しました。最初から2ゲージを置いてスタートするのもその一環です。ちなみに最初からゲージを置いておくアイデアは私の発案です。
コロコロコミックさんと2001年頃から話していたことが、2012年にようやく実現に動きはじめて、2014年に発売されました。私にとって20年来の活動でした。
今後もサポートはしばらく続きますので、アクティブなゲーム性を可能な限り楽しんで、愛していただきたいと思っています。

 ここ数か月、カードの中古価格の値上がりが続いています。シングルカードでも必須カードというだけでそんな価格になるのかというものが増えています。コロナ下では大規模大会ができないため、ファンデッキ的な楽しみ方が強くなってきている。つまりコレクション需要の高まりです。
どんなに長くても2年ほどで新型コロナウイルスも収束に向かうはずです。しかし、それまでは対面でのプレイが必要なカードゲームの完全復活は厳しい。“集めたい”“こんなデッキ組みたい”“光っているカードがほしい”“懐かしい”といったユーザーの気持ちに応えて、コレクター要素を高めた展開も検討しています。新たなブシロードの戦略にご期待ください!