コラム「木谷高明の視点」

第4回 「新プロジェクト『バディファイト』と業界に残された課題」

2013年07月24日

ブシロード社長の木谷です。今回はここでお伝えしたい話題が2つあります。まずは先頃発表した新作カードゲーム『フューチャーカード バディファイト』(以下『バディファイト』)についてです。『バディファイト』の最大の目的は、小学生のカードゲームユーザーをもう一度開拓することです。繰り返し述べていることですが、カードゲーム業界は常に新規ユーザーに遊んでもらうことが必要不可欠です。例えば『仮面ライダー』でも『ウルトラマン』でも、かつて途中でシリーズが途切れている期間がありました。その間にどうしてもファンは離れてしまう。カードゲームにおいてもそれは同様です。もちろん『ヴァンガード』には引き続き力を入れていきますが、時間が経つにつれてどうしてもファンの年齢層は上がってしまうので、ユーザーの裾野を広くするためにも常に小学生向けの元気のいいタイトルを途切れずに送り出すことが絶対に必要だと考えています。

『バディファイト』のプロジェクトとしての最大の特徴は、雑誌展開を『月刊コロコロコミック』さん、アニメ展開をオー・エル・エム(以下、OLM)(※1)さんで行う点です。まず『コロコロ』さんですが、じつはいまの編集長とは10年以上のお付き合いです。「いつか一緒にやりたいですね」という話はしていたので、今回組めたのは私にとって念願と言えます。『コロコロ』さん側としても、『バディファイト』のライバルタイトルである『デュエル・マスターズ』を長年手がけているわけで、そこへの思い入れも非常に強い。ただほかのホビーやテレビゲームは複数タイトル誌面で取り上げられているわけで、そろそろカードゲームを複数同時に載せてもいいかもしれない、という空気が今回の実現を後押ししてくれたのかもしれません。

一方のOLMさんもかなり早い段階から「次のプロジェクトではぜひ」と言っていただいて、今回組めることになりました。OLMさんはキッズアニメの老舗だけあって、アニメ化の準備がものすごく速い。キッズアニメのノウハウがあるだけに、先の先まで計画して進めていただいていて、うちとしても本当にありがたいパートナーです。

『バディファイト』の中身に関して言うと、原作を池っち店長こと、池田芳正(※2)さんにブシロードと共にやってもらっているのが、カードゲームファンへの大きなアピールポイントと言えるでしょう。ご自身が代表を務めるカードキングダムを辞任しての参加になります。『バディファイト』を立ち上げるにあたって、原作の部分を誰なら作れるか、僕もいろいろ探しましたが、以前も触れたように日本のカードゲーム開発者のほとんどは『マジック・ザ・ギャザリング』の影響から逃れられません。本当は『遊戯王』ブーム以降に育ったもっと若い世代のクリエイターの登場を待てればよかったんですが、今回は待てなかった。そうした背景のなか、いまキャラクター性重視のカードゲームを最もクリエイティブに作れそうな人というと、僕は池っち店長しか思いつきませんでした。立ち上げに際して「やりませんか?」と提案したところ「ぜひ!」と快諾していただきました。池っち店長にはとくに『バディファイト』の物語性にこだわって作ってもらっています。カードゲームショップの店長からカードゲームの原作者になったというのは、もしかしたら初めてではないでしょうか。カードゲームショップで働く人は、自分でカードゲームを作る夢を多かれ少なかれ持っているはずなので、今回池っち店長は注目されると同時に嫉妬もされると思います。しかしこれはカードゲームというジャンルの中での、ジャパニーズドリームとも言えるのではないでしょうか。

もう少し『バディファイト』の中身について触れますと、ゲーム自体は学校の休み時間でも遊べるように短いです。『ヴァンガード』より3ターンぐらい短い。長くても5、6ターンじゃないでしょうか。また小学生ぐらいのプレイヤーはやっぱり最強の一枚を使いたいものなので、今回はいきなり強いカードが出せるシステムにしています。ルールもカードゲームをやったことがある男の子ならすぐ覚えられるものです。要するに講習会もいらないようなカードゲームがやりたかった。デッキを組むのは『ヴァンガード』より少し難しいかもしれませんが、今回は雑誌の誌面で攻撃型、バランス型、防御型といったデッキの提案をしていくので、その通り組むだけでも十分遊べます。それと今回は小学生の男の子向けに徹底するという意味でも、萌えイラストは禁じ手とさせてもらいました。

また今回ぜひ行いたいと考えているのが、先行する『ヴァンガード』とクロスする形でのプロモーションです。例えば『バディファイト』のアニメのなかで『ヴァンガード』のCMを流す。逆にヴァンガ祭のイベント会場で『バディファイト』のコーナーを設けたりと、おたがいの垣根を越えた形でのプロモーションを計画しています。今までこのように2タイトルでクロスプロモーションできるカードゲームは無かったので、この利点は非常に大きいと考えています。そのほかの特徴としては、日本語版と英語版を同時発売します。『ヴァンガード』のラインに乗せますから、特にアメリカと東南アジアですね。

ブシロードとしては『バディファイト』でこうした様々な施策をで行うことで、『ヴァンガード』を超えるシリーズに育てていきたいと考えています。スタートは2014年からですが、準備は着々と進めていますので、続報は11月に開催予定の「ブシロード戦略発表会」、12月に開催予定の「バディファイトカンファレンス」をお待ちください。

さて、話題はガラッと変わるのですが、今回のコラムでは、もうひとつ言いたいことを付け加えさせてください。前回のコラムでカードゲーム業界を活性化させるためにも、ベンチャーの存在に期待したいと述べました。もうひとつ、カードゲーム業界において改善を訴えたい要素があります。それは取次、問屋です。ユーザーには直接馴染みのない話題なので、ピンと来ない人も多いと思うのですが、カードゲームのビジネスにおいて、問屋は避けて通れない存在です。ただしはっきり言って、日本のカードゲームの問屋はまだ遅れてると思うことがしばしばあります。

問屋はメーカーとショップの間に立つポジションなのに、両者への情報提供はほとんどないに等しい。本当に商品を間で取り次いでいるだけです。アメリカのディストリビューター(卸業者)のほうが、付き合っていても心強い。例えばアメリカの場合、それぞれの問屋が何州に何店舗商品を卸しているかというデータがあります。そのデータを共有して、人口比で手薄な州を調べて、そこから重点的に攻めていく。アメリカは広いですから、そのまま日本でも同じ方法が通用するとは限りませんが、とにかく日本では問屋さんからの企画書というものを見たことがありません。流通の現場に意識が高くて、カードゲームが好きな人はきっといると思うのですが、上司がリスクを取らなければそれまでです。

現状、問屋はやっていることが掛け率(定価に対する卸値の割合)の競争だけで、企画の提案力に欠けていると思います。メーカーから送られてきた商品をショップにそのまま流してるだけです。こんな商売はいまどきほとんどありません。問屋は確かに粗利が低い商売なので「これが売れるだろう」と大きくヤマを張った商品が外れたら利益が消し飛んでしまうのはわかります。しかしもうちょっと工夫してメーカーやショップとの連携を取ってくれないか。それが無理ならせめて問屋で在庫を持ってくれればいいんですが……。最後はちょっと愚痴っぽくなってしまいましたが、これもカードゲーム業界が取り組むべき課題だと考えています。

注釈

(※1)株式会社オー・エル・エム

1994年設立のアニメーション制作会社。代表作に『ポケットモンスターベストウィッシュシーズン2』『イナズマイレブンGOギャラクシー』『ダンボール戦機ウォーズ』などがあり、人気キッズTVアニメシリーズや劇場作品を多数手がけている。

(※2)池田芳正

「池っち店長」の愛称でカードゲームファンにはおなじみの存在。徳島のカードゲームショップ店長を経て、カードゲームショップグループ「カードキングダム」の代表を長年務めてきたが、今回『バディファイト』原作者に専念するため、代表職の辞任を発表。新たにカードゲーム企画会社「スタジオ池っち」を立ち上げる。