コラム「木谷高明の視点」
第3回 「来たれ、カードゲームベンチャー!」
2013年06月11日
ブシロード社長の木谷です。まずは今月の話題から触れていきたいと思います。今月は東京おもちゃショーでブシロードから、新たにふたつのカードゲームを発表します。ひとつは以前から予告しているように、アナログのカードとソーシャルゲームのハイブリッド型。当社では『キング オブ プロレスリング』に近いタイプのカードゲームです。従来のカードゲームはスタートに合わせて、プレイヤーのコミュニティを垂直立ち上げしなければいけなかった。その分、広告なども多く必要となるので、非常にリスクが大きかったのですが、その点ハイブリッド型はひとりでも遊べますし、ネット上でゆるやかにコミュニティが形成されていけばよいので、カードゲームの未来形のひとつかなと考えています。
もうひとつは前回のコラムで課題として挙げた、小学生ユーザーの開拓を主眼とした新たなカードゲームです。まだ多くは明かせないのですが、『ヴァンガード』とは異なるシリーズとして開発を進めています。『ヴァンガード』はいまや中高生がメインターゲットに移行していますし、主人公のアイチも高校生になりましたから、今度の新作では主人公も小学生にしたいと考えています。現状でお伝えできそうなのはこのくらいでしょうか。今後の続報をお待ちください。
以前のコラムでも挙げた目標ですが、このふたつの新作を成功させて、ブシロードとしては来年2014年の中頃までにカードゲーム業界の月間シェアで5割を取りたい。まだ平均で2割ぐらいですから、2.5倍を目指すことになります。それに加えて、今度の新作ではスタートから2年目ぐらいで年間売り上げ100億を目指したいとも考えています。昨年『ヴァンガード』では日本語版、英語版、その他もろもろ合わせてピークで90億近く行ったので、これを超えていきたい形です。
さて、シェアの増大を掲げておいて真逆に感じる話題かもしれませんが、今回ここでお伝えしたいのは「もっとライバルメーカーに出てきてほしい」という私からの願いです。日本のカードゲーム業界は、市場規模で1000億円になろうとしているマーケットですが、売り上げの5割以上がカードゲームというメーカーは、いまのところブシロードを除いてほとんどありません。例えば本を世に出すのはおもに専業の出版社ですが、カードゲームに関しては、バンダイさんやタカラトミーさんのようなおもちゃ会社、あるいはコナミさんのようなデジタルのゲーム会社が兼業でやるものという認識で、専業メーカーが主流というイメージはまだないと思います。
カードゲームビジネスは『ヴァンガード』のように大きく仕掛ければ当然お金はかかりますが、小さな規模でも十分に成立する分野です。昨今のソーシャルゲームと同じく成長を続けているのに、ソーシャルゲームのようなベンチャーは、なぜカードゲームで出てこないのか?「カードゲームはお札を刷っているようなものだ」という声も相変わらず根強いですが、本当に簡単に儲けられるビジネスだったら、どんどん出てきていてもおかしくない。これだけベンチャーが少ない現状は、カードゲームビジネスがそれほど単純ではないということを、皮肉にも別の角度から証明しているとも言えます。カードゲームを作りたいという欲求を持っている人は、もしかしたら同人の規模で満足しているのかもしれませんし、アナログのカードゲームよりもデジタルのゲームを作るほうが手軽だと考えているのかもしれません。
カードゲームのメーカー以上に少なすぎると感じるのは、ゲーム本体を開発するデベロッパー(開発会社)です。デベロッパーがなぜ少ないのか。それは長期に渡って続いているカードゲームが少ないからでもありますが、そもそもシリーズを複数同時に展開しているメーカー自体も少ない。ブシロード以外だとバンダイさんぐらいでしょうか。メーカー自体が少ない以上、開発現場も限られているだろうと考えるのは自然な流れです。
では逆に、メーカー側である私の立場から見てなぜデベロッパー不足だと感じるのか。その最大の理由はいまのデベロッパーの大半が『マジック:ザ・ギャザリング』(※1)世代だということです。例えばブシロードの長年のパートナーであるデベロッパーと言えば遊宝洞(※2)ですが、その中心的人物である中村聡さんはもともと『マジック』の名プレイヤーです。トレーディングカードゲームというジャンルを打ち立てた『マジック』はいまでも非常に大きな存在ですが、コアユーザーに向けたシリーズであるがゆえに、その影響を受けたデベロッパーは、どうしてもプレイング重視のゲームを作りたがります。コアユーザーで「誰でも勝てるゲームを作りたい」という人はあまりいない。「やり込んでいるプレイヤーが気持ちよく勝てるゲームにしたい」というのが本音だと思います。しかし需要の総量としては、それと反対側のライトユーザーからの需要のほうがはるかに大きいわけです。その点は常に気をつける必要があります。
現状としては、デベロッパー不足は当面仕方がないものとして、メーカーのなかにいくつか開発チームを作っていくしかないと思います。そうじゃないと作るものが進化しませんから。冒頭でも触れたふたつの新作は、外部のデベロッパーではなく、ブシロードの内部チームによる開発です。システムの開発、運用、テストプレイまで内部で進めています。またデベロッパー以外に、テストプレイを専門に行う会社がもっとあってもいいと思います。そういったデバッグを請け負う会社もありますが、カードゲーム専業ではなく、テレビゲームのデバッグをやりながらです。テストプレイのノウハウ自体もはっきりと確立しているわけではないので、こうした部分のクオリティアップも、カードゲーム業界全体が取り組んでいく必要があると考えます。
自分が考えるカードゲームを世に送り出すために、会社組織を立ち上げるというのも、ひとつの現実的な手段です。現在のカードゲーム業界を支えているのは、紛れもなく『マジック』世代のデベロッパーのみなさんですが、1990年代後半の『遊戯王』をはじめとする、国産カードゲームのブームに魅了されて育った、若い世代のデベロッパーはまだほとんどいません。いたとしても世代的に会社を立ち上げるところまで行ってないのでしょう。それでも5年後、10年後にはそうした世代のデベロッパーが間違いなく出てきます。そうすれば『マジック』の系譜とはまた違った形の、新しいカードゲームが出てくるはずです。そこからさらに世代が進めば、ブシロードのカードゲームで育ったデベロッパーもいずれ出てくるかもしれません。業界に新しい流れを吹き込む、カードゲームベンチャーの登場を期待しつつ、今回はこの辺で締めくくりたいと思います。
注釈
(※1)『マジック:ザ・ギャザリング』
アメリカのウィザーズ・オブ・ザ・コーストが手がける、トレーディングカードゲームの草分け的存在。1993年に発売され、日本語版も1995年から展開されている。
(※2)遊宝洞
2001年に設立されたカードゲーム開発会社。現在も多くのシリーズを手がけており、ブシロードでは『カードファイト!! ヴァンガード』『ヴァイスシュヴァルツ』『ヴィクトリースパーク』などの開発を担当している。