コラム「木谷高明の視点」

第38回 TCGカンパニーからIPデベロッパーへ

2018年10月30日

 木谷です。おかげさまで「BanG Dream!(バンドリ!)」プロジェクトが好調です。スマートフォン向けゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』はユーザー数が777万人を突破しました。Twitterフォロワー数も先日、100万人を超えて順調に増え続けています。

 夏から秋にかけて、さまざまなコラボも行ないました。
トレーラー5台を走らせて秋葉原をジャックをしたりと、大がかりな宣伝の他、7月には『ペルソナ』シリーズ、8月からは映画『青夏 きみに恋した30日』、さらにプロ野球のパ・リーグ6球団、さらに初音ミクと、その効果もあってか、今年の夏は客層が一気に縦に横にと広がったことを実感しています。
人気のコンテンツとなるとファンの方々の思い入れが強いため、コラボ企画はあまり好意的に受け止めていただけない場合が多く、ともすればSNSなどで炎上することになりかねないのですが、『バンドリ!』に関してはそういったことは起こりません。
理由は簡単で、『バンドリ!』では、最初からバンドでカバー曲を歌っていた。いきなりカバー曲をやることで、“『バンドリ!』は何でもあり”という印象を、スタートの時点で持ってもらうことに成功したからです。つまり、ファンの中に、いわゆる原理主義者的な“こうじゃないといけない”という考えをする方がいないので、今回のパ・リーグ6球団とのコラボのような、実験的なことも気軽に行える。そのフットワークの軽さが『バンドリ!』強みとなっています。
プロ野球とのコラボはファン層が少しズレているような気もしますが、始まってみると、なんだかよくわからなくても配られたお面をかぶって楽しんでくれている方がたくさんいてホッとしました。確実にそこから興味を持って入って来てくれる人もいますので、今後も続けていきたいですね。さまざまな形で盛り上げながら、来年1月のアニメ「BanG Dream! 2nd Season」に向けて準備を進めていきたいですね。

 私自身はここ数ヶ月、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』のプロモーションに特に力を入れてきました。ミュージカルを基点にして、舞台の主要キャストがアニメやアプリでの声優も担当するという今までにない形が、果たしてどこまで支持を得るのか心配だったのですが、TVアニメ放送終了後も新作舞台、アプリ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト -ReLIVE-(スタリラ)』のリリースと、話題を提供できたのではないかと思っています。
おかげさまで『スタリラ』は事前登録キャンペーン参加数が100万人を突破し、順調なスタートダッシュを切ることができました。
課題は、年齢層。舞台という形が支持されるのは30代、40代の方が中心。10代、20代の方には思ったほど届いていないのが現状です。理由は簡単で、若い人にとって、舞台が一般的なものじゃなくなっているんです。
『ラブライブ!』がなぜあそこまでヒットしたのかと考えてみると、その当時AKB48などのアイドルグループが伸びていて、アイドルというものが一般化されていました。世間に認知されているにもかかわらず、2次元+3次元のコンテンツに関しては新鮮に映った。「バンドリ!」もそうです。しかし、アイドルやバンドに比べて、舞台はまだまだ世間の認知度が低い。今後の課題は10代20代にも届くコンテンツを目指すこと。アプリを含め、別方向からも盛り上げていけたらと思っています。『バンドリ!』に並ぶコンテンツを目指しています。

 ブシロードの日本語版TCGプレイヤーの世界一を決める公式大会「ブシロードワールドグランプリ2018(WGP2018)」が、日本でもスタートしました。12月23日のコンベックス岡山まで、週末、全国各地で大会が開催されていますので、ぜひ、お越し下さい。
最近のWGPは『ヴァイスシュヴァルツ』のユーザーがすごく増えていて『ヴァンガード』より『ヴァイスシュヴァルツ』の参加者の方が多くなってきています。
『ヴァイスシュヴァルツ』は今年10周年なんですが、前期(2017年8月~2018年7月)は過去最高の売上を記録しています。好調の理由は『バンドリ!』、そして『Re:ゼロから始める異世界生活』。この2タイトルは、レアリティの高いカードが注目を浴びて、ヒットにつながりました。カードゲームユーザーの裾野はアプリで増えていますので、今後もリアルカードの持つ“実物のよさ”をアプローチしていきたいですね。

 『ヴァイスシュヴァルツ』のユーザー増加もそうですが、『ポケモンカードゲーム』が盛り上がっているのも、やはりIPの時代になってきている証拠だと思います。
膨大な情報の中では記号化されたものしか目に入らない。目立っているものをより目立たせることが必要になり、目立たなくなれば脱落してしまいます。強いところが強くなる一方です。
世の中の情報量はどんどん増えていますが、お客さんの受信能力はそんなに上がるはずはない。そうすると、目立っていないものは脱落してしまうんです。
エンタメ業界ではすでに脱落が始まっています。例えばアニメは数が多すぎてユーザーの取捨選択するタイミングがかなり早まっている。
最近は配信などで観れる機会は確実に増えているのですが、なかなかユーザーに届かない。心理的にも1話を見逃すともういいやという気持ちになる。情報が個人の処理できる量を超えてしまってるんです。
既存の4媒体、テレビ・新聞・ラジオ・雑誌の今年4月頃から、さらに落ち込みを見せています。ラジオ局も売上が大きく減っていますし、テレビも最近、スポットCMが安くなってきている。
決まった時間にテレビを見る習慣というか、概念自体が、もうなくなってしまっている。それがあるのは今やスポーツだけ。スポーツコンテンツの需要が世界中で高まっているのはそういう理由ですね。
新規コンテンツがテレビ中心に生まれる時代はまもなく終わります。そうすると、新規IPを立ち上げることが今よりもさらに難しくなるはずです。
アメリカのトイザらスが倒産した件について、ウォルマートやAmazonの台頭が理由だと言われていますが、私は、テレビの衰退が原因だと思っています。
テレビが力を失いつつある現在、話題の中心はネットに移っていますが、ネットから新しいキッズコンテンツが生まれたことはまだない。ネットのプロモーションというのは、それに関心がある人に広がっていきますが、新規の人に広がりにくい。
海外のトイザらスに行くと、ここ数年、徐々にNerf(スポンジの弾を撃つ子供向け銃のおもちゃ)のコーナーが拡大していました。要するにキャラクターマーチャンがあんまり回らなくなり、店頭が変わり映えしなくなった。そうすると、みんなつまらないので行かなくなる。私は、トイザらスの潰れた理由の半分はこれだと思っています。
エンタメだけでなくメディアも含めて、プラットフォーマーになるかIPホルダーになるかのどちらかしか選択肢がなくなってきている。
それ以外はほとんどが、おこぼれをもらっている会社になります。

 ブシロードグループのIPの売上は、「バンドリ!」、「新日本プロレス」、「ヴァンガード」の上位3つがいずれも年間40億円を超えています。この3つのIPの中から100億を超えるものを出すのが今期の目標です。
近い将来、ブシロードはTCGカンパニーからIPデベロッパーへと変わります。ただカードゲームに関してはブシロードの祖業ですので、こちらはずっと大切にしていきたいと思っています。
日本でも2、3年後にはメディアは様変わりするはず。向こう3年で生活様式も含め、いろいろなものがすべて変わると思っています。
ネット広告がテレビを抜く日も近いでしょう。メディアは新しいものが生まれると、どんどん入れ替わっていく。ブシロードはメディアが変わっても認識されるべく、IPの価値をどんどん高めていくつもりです。
生まれ変わるブシロードにご期待ください!