コラム「木谷高明の視点」

第35回 必要なのはスピードと大胆さ。「電撃戦」で勝利をつかむ

2018年04月03日

木谷です。3 月いっぱいでシンガポールから日本へ帰国しました。
もともと3年という予定で2014年の8月からシンガポールへ移住したので、概ね予定どおり海外市場の開拓も成功しました。今月からは日本を拠点に本格的にものづくりに力を入れていきます。

まずは『カードファイト!! ヴァンガード』(以降、ヴァンガード)の再成長に注力していきます。
3月14 日に「カードファイト!! ヴァンガード新シリーズ制作発表会」でお伝えしたとおり『ヴァンガード』の新作アニメは、これまでのアニメ放送の常識にとらわれない放送形態を実現しました。
まずAbemaTVで世界最速先行放送をして、さらにTOKYO MXで週3回テレビ放送します。さらに放送後の各話をすぐにYouTubeのヴァンガードチャンネルにアップロードする予定です。つまり、放送後はいつでも鑑賞が可能となります。やはり『ヴァンガード』の場合はアニメを見て“ごっこ遊びをしたい”“主人公やライバルのようなことをリアルでやってみたい”というところからカードゲームに興味を持ってもらいたい。テレビの力が失われつつある今、継続して観てもらうにはどうしたらいいかをとことん考えた結果、こういう形になりました。

前回、ヒットを生むには「勝ち組感」が重要だと話しましたが、勝ち組感を作るには「電撃戦」が効果的です。
電撃戦とは、かつてのドイツ軍が得意とした戦術です。航空戦力で先制攻撃を仕掛けて拠点を破壊し、間髪入れずに機甲師団が攻め込み、さらに歩兵が混乱する拠点を短時間で征圧していきます。
オリジナルコンテンツを立ち上げる場合、まず、先陣を切る、アニメ、音楽、ライブが航空戦力にあたります。
アニメと音楽に関してはデジタルですから、やはり空から降ってくるわけです。
今、コンテンツとしていちばんパワーがあるアプリゲームは機甲師団です。うまく軌道にのり、デイリーアクティブユーザーが50万人を超えると、アプリゲームはとんでもないパワーを発揮します。アニメや音楽で耕されたところにアプリが乗り込んで行くことで、アプリを中心にすべてが回りはじめます。この状態で、さらに歩兵にあたるカードゲームやグッズがコアなユーザーの求める欲求を満たしていく。

『BanG Dream!(バンドリ!)』の展開が、まさにこの電撃戦でした。次の『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』もこの戦法で戦う予定です。

スピーディーな波状攻撃が「勝ち組感」を生み出すことにつながる。電撃戦を可能にするにはアニメ、音楽、アプリなど、すべての戦力を束ねてコントロールする必要がある。そのためには、100%の出資が重要になってきます。

今、アニメやアプリゲームの制作費は格段に上がっています。アニメやアプリをセットで進めるプロジェクトの場合、制作費に加えて開発費、運営費、追加プロモーション費用など何もかも足すと15億、場合によっては20億という金額が必要になる。これは1年分の子供向けアニメを立ち上げられる金額です。そのプロジェクトのアニメ部分を製作委員会制にすると、5%の出資金額から受け付ければ1,000万円から参加できる。委員会制にした場合、何かをしようとするたびに、その5%の出資者へも、お伺い立てないといけない。その時間のロスを考えると、委員会制はデメリットが大きい。そこにみんなが気つき始めています。

第1次世界大戦のイタリアと同じですね。イタリアが連合国側に寝返ったときに、ドイツ皇帝が参謀に対して『イタリアが寝返ったけど大丈夫か?』と聞いたら、参謀は『味方だったら加勢に多くの師団を割かなければいけないですが、敵だったら少ない師団で済みます』と答えたんです。
要するに弱い味方だったらいない方がマシだということです。冷たい言い方ですけど、弱い味方をいくら集めても意味がありません。つまり、今後は大手同士、動きの早い者同士がパートナーシップを組むケースが増えていくはずです。

新しいことをやるには迅速さと大胆さが重要になります。『ヴァンガード』の新作アニメもブシロードの100%出資だから、今回のような放送形態が実現しました。今後、アニメの製作委員会方式は少なくなり、どんどん100%出資の作品が増えていくと思います。

『ヴァンガード』の新シリーズはゲームもアニメと同じく、いちばん最初の『ヴァンガード』のおもしろさに戻る原点回帰がテーマです。カードの中身も全体的にシンプルになって、発売1年目から2年目の頃に近いゲームになっています。現在のファンにはそのまま継続して遊んでもらいつつ、昔遊んでいた方にも、もう一度帰ってきてもらいたい。さらに、新規ユーザーにもぜひ遊んでいただきたい。最近、デジタルカードゲームが、若干、飽きられはじめている気がします。やはり日本人は顔を見て相手とのコミュニケーションも楽しみながら遊びたいという人も多い。そういった層に新シリーズを届けていきたいですね。

新たなレギュレーションが話題となっていますが、『ヴァンガード』の長期的な展開を考えると必要なことだと思います。私は『ヴァンガード』を100年続くコンテンツにしたいと考えています。ユーザーのみなさんも、このカードゲームがずっと続くことを望んでいるはずです。そのためには新規の方に始めてもらったり、以前遊んでいた人が戻りやすいタイミングを作るのは大事なことです。ですから、そこはご理解いただきたい。これがうまくいけば日本のカードゲーム業界にとっても革命になるはずです。

アプリゲーム『ヴァンガード ZERO』は、リリース開始時期を予定より遅らせたことで他のデジタルカードゲームよりも内容を一歩進んだものになる予定です。
開発期間も伸びて開発費もプラスになって、どんどんリッチコンテンツになってきています。ストーリー性やキャラクター性など対戦以外の部分にも力を入れていて、たとえば昔のアニメの1期シリーズや2期シリーズがストーリーとして楽しめるような仕掛けを考えていますので楽しみにしておいてください。

日本に戻ってきて、ここからの2、3年、2020年までが勝負だと思っています。新年度も全力でヴァンガります!