コラム「木谷高明の視点」
第2回 「ブシロードを取り巻く、エンタメ業界のビックバン」
2013年05月01日
ブシロード社長の木谷です。前回からコラムという形で、こちらの意見をお伝えする場を設けてもらいました。まずはたくさんの方に読んでいただいたようで、ありがたい限りです。現役のカードゲームユーザー向けというよりは、比較的ビジネスの話が多くなりますが、引き続きお付き合いください。今回はカードゲーム業界、アニメ業界、そしてエンタメ業界全体と、ブシロードが関わる3つの業界の課題について、それぞれ考えてみたいと思います。
まずはカードゲーム業界の課題。先日『カードファイト!! ヴァンガード』のキャンペーンで東海と北陸を回ってきたんですが、いろんなショップでみなさんそれぞれ漠然と将来への不安を持っているということを感じました。カードゲーム業界の景気としては2013年に入って良くなってきているんですが、1年前、2年前よりもお店に来る小学生が少なくなってきています。なぜかははっきりわからないんですが…。要因として考えられるのは、3DSとスマホ、タブレットですね。なんとなく新入部員が入らなかったサークルみたいな感じが漂っているかと。小学生のユーザーがいなければ、将来的に中学生、高校生のユーザーも減りますから、カードゲーム業界の課題としては、小学生ユーザーをしっかり作ることがいまは何よりも大事だと考えます。当社としては『ヴァンガード』がそれにあたりますが、これも徐々に中高生をメインターゲットにシフトしているので、小学生がメインターゲットになる、新たなシリーズへの取り組みも、視野に入れているところです。
ふたつ目はアニメ業界と、アニメによるマーチャンダイズの課題です。この春のアニメの新番組もそうですが、どの作品もみんなクオリティが高い。いまのアニメはおもちゃではなくソフトを売ろうとしているわけですが、ただしそこの競争に勝ったからと言って、かけたお金が10倍になるではないんです。せいぜい2倍か3倍。でも負けると10分の1とかになっちゃう。つまりアニメビジネスがどんどんハイリスク・ローリターンになってきている。100メートル走で10秒を切っても、メダルをもらえるのはほんのひと握り。本当にそんな感じなんですね。アニメ業界はみなさん命を削ってやってますから、こうしたハイリスク・ローリターンの状況が続きすぎても、限界があるんじゃないでしょうか。当社はそこにも関わっているんですが、自分の気持ち的にはちょっと距離を置きたい。
だったら誰も目をつけてないところを狙ったほうがいいんじゃないか、という試みが4月からスタートした『マイリトルポニー』(※1)です。世界中で流行っている玩具なんですが、日本ではまだ流行っていない。テレビの枠代(電波料)は同じでも、輸入アニメですから、購入費と吹替の費用だけで新しくアニメを作るより圧倒的に安く済みます。こうしたやり方は、アニメのマーチャンダイズのもうひとつの方法かなと思っています。つまり『ヴァンガード』のアニメのように日本で立ち上げて、世界中に展開するつもりで億単位のお金をしっかり使う。あるいは『マイリトルポニー』のように制作費は控えめで、世界中で流行っているアニメを使ってマーチャンの国内展開する。そのどちらかだと思っています。
同じく4月から始めた『ファイヤーレオン』(※2)は特撮番組ですが、こちらの制作費は1話あたり500万円ほどです。通常のアニメの3分の1ぐらいですね。まだビジネスモデルは確立していませんが、どうやって回収するのかはともかく、とりあえずチャレンジとして始めてみたという感じです。ツッコミどころも満載なので、ニコニコ動画やツイッターで共有しながら楽しんでもらうのにすごく向いている作品です。業界のクオリティの競争激化を決して否定するわけではないんですが、そのアンチテーゼとして『マイリトルポニー』と『ファイヤーレオン』を始めたところはあります。
3番目はエンタメ業界全体の課題です。もはや課題というより、地殻変動と言ったほうがいいかもしれない。これはやはりスマホとどう付き合うか。当社もブシモで展開している『バウンドモンスターズ』(※)がやっと吹き上がりました。Androidの新着ランキングでトップになって、Android全体のダウンロードランキングでも8位ぐらいです(4月9日現在)。iPhoneのランキングでは低いんですけどね。この成績の違いについてですが、いま新規のスマホユーザーはAndroidが多い。うちも新参なので『バウモン』は、新規開店のお店に新作ゲームが並ぶ形で、うまくタイミングが合った。なのでうちはAndroidに力を入れていくべきかなと思っています。今回『バウモン』では、間口が広いオリジナルのゲームに対しては、CMで人が集まってくれやすいと、つくづく感じました。こういう場合、原作付きのゲームかえってキャラクター自体が邪魔になってしまう。世界観を知った上でないと楽しめないし、どうしてもファン中心にしか広がらないんですね。とにかく『バウモン』はいま調子がいいですし、どんどん広告も打ちまくるので今後が楽しみです。
スマホとタブレットが普及してきたことで、電子書籍への動きも一気に起こるんじゃないでしょうか。ブシロードと電子書籍はまだ直接つながりはありません。本当は関わりたいんですが、全部の業界を攻めるわけにはいかないですからね。もし出版社が本気になって電子書籍に力を入れたら、中古書店とマンガ喫茶の利用者を取り返して、かえってマーケットが広がるんじゃないでしょうか。過去の資産を活かせる大手出版社ほどチャンスだし、本当は儲かってしょうがないターンに入れると思うんです。これまで「マンガ喫茶や中古書店にお客を取られた」と出版社は言ってたわけで、そこを取り返すチャンスなのに、なぜ真剣にやらないのか。それは取次や書店との関係を変えられないからだと思いますが、もはやそこを気にしている場合ではないでしょう。明治維新のときに特権階級だった武士も平民になったわけですよね。スマホやタブレットでそういう変化の時代が来てしまっている以上、抵抗勢力から斬られる覚悟で変えていくしかない。そのまま放っておいても変わってしまうわけですから。
ではカードゲームは今後どんどん電子化するのか? そうした疑問をお持ちの方もいると思います。その点についてお答えしますと、もし電子化してなくなるとしたら、とっくの昔にマーケットは縮小していると思うんです。スマホでもカードゲームはたくさん出ているし、囲碁も将棋も麻雀もみんなインターネットで対戦できるようになったにもかかわらず、最後はちゃんとアナログの形で遊んでいる。つまり同様にカードゲームもカードを集めて、トレードして、デッキを作って、人と対戦する、長年のアナログ文化になっている。これは簡単には崩れないと考えています。
最後に、こうした課題に対して当社が達成していくべきミッションを挙げておきましょう。まずはカードゲームのマーケットにおける当社の占有率を上げる。当面はシェア50%が目標です。できれば2014年の中ごろまでにはなんとか達成したい。続いては海外展開、とくに東南アジアに注力していきます。最後はスマートフォンに対する取り組み。イコールブシモと言ってもいい。このブシモをゆくゆくはグループ全体のプラットフォームにも成長させていきたい。大きく分けてこの3つです。こうしたミッションに取り組みながら、当社もカードゲーム業界、アニメ業界、エンタメ業界、それぞれ盛り立てていきたいと考えています。ずいぶんとジャンルを横断した話になりましたが、今回はこの辺で。
※1 マイリトルポニー
1980年代からアメリカで展開されている、カラフルなポニーの女児向け玩具。 日本では2013年4月からブシロードがメインスポンサーとなり、吹替版アニメ『マイリトルポニー~トモダチは魔法』がスタートした。
※2 ファイヤーレオン
2013年4月からスタートした特撮ドラマ。プロレスラーを目指す青年がファイヤーレオンへと変身し、悪のバイオレスラーとプロレスバトルを繰り広げる。 各地のご当地ヒーローや新日本プロレスリングの選手など、多彩なゲストも見どころ。