コラム「木谷高明の視点」

第22回 「世界単一市場に向かう業界で戦い抜くには」

2015年10月20日

ブシロード社長の木谷です。久しぶりのコラムとなりました。

気がつけば年末が迫っている2015年ですが、思えば今年は新しいカードゲームがどんどん出てきた一年でしたね。「パズドラTCG」に「ドレッドノート」、「銀鍵のアルカディアトライブ」などの特色ある話題作がいくつか登場しました。昨年から今年にかけては終了するタイトルが目立ち、選別されていった印象でしたが、その分新作が入ってきて、盛り上がっているように思います。

ただ、世界的なカードゲーム市場から見れば、ひとつの市場に多数のタイトルがひしめく状況は例外的な状態です。 
色々なところでお話していますが、コンテンツのデジタル化が進み、オンラインにより世界へ同時に発信できるグローバル化が前提となると、市場が同質化していきます。強いもの、人気があるものにユーザーが集まって、ほかは弱っていく。世界単一市場に近づいているのです。日本はコンテンツホルダーが豊富で多様性がありますが、世界的な単一化の影響は受けていますし、今後も強まるでしょう。

世界規模でのカードゲーム市場はおおおまかに「MTG」と「デュエル・マスターズ」、「ポケモンカードゲーム」、「遊戯王」、そしてブシロードTCGの4系統に収束して行くと思います。当然のように自分のところを入れておきます。この先、単発の商品は普通に出続けると思いますが、大きくはこの4系統に収束して行くと思います。

「MTG」最強の市場で、ほかのカードゲームはなにをすべきか? 「MTG」とは異なる、独自の世界観を打ち出さないといけません。「MTG」とは逆方向の価値観を提示する必要があります。 

カードゲームプロデューサーは無意識に「MTG」の影響を受けてしまう。イベントやキャンペーンでも「MTG」が実施していたことを踏襲したがる人もいます。ブシロードで同じような企画があがったら、少なくともアレンジすべきです。イベントの名前や時期をキャラクターの名前や性格などにちなむなど、ちょっとした工夫でブシロードならではのアレンジはいくらでも出来ますから。

 全体の方向性でいえば、競技性を追求する「MTG」がある以上、ブシロードは楽しくみんなで遊べる、エンターテインメントのカードゲームを送り出していきます。運ゲーばかりだとか、同じようなカードが多い、などと言われることもありますがアニメの世界をキャラクターになりきって楽しめることのほうが大事です。

9月の東京ゲームショウでは、展示したヴァンガードのファイトテーブルの反響がすごかったです。カメラでカードを読み込んで映像で演出されるという、アニメのカードバトルが再現できるものですが、来場された方のなにげないツイートのリツイート数が10000を超えました。ゲーム自体が変わったわけではないのに、テーブルでユーザーは未来を感じて、感動する。そこが重要な部分です。 

まだ実用化のテスト中ではありますが、ファイトテーブルに象徴される“遊ぶ”魅力によって、カードゲームのおもしろさをもう一段階上げることができるかもしれません。

キャラクター性のあるエンターテインメントカードゲームとしては、悔しいけれど「遊戯王」や「ポケモンカードゲーム」がまだまだ強いです。ブシロードのタイトルでオリジナリティにおいてそこに互せるのは「ヴァイスシュヴァルツ」でしょう。 

「バディファイト」や、「ヴァンガード」は影響を受けたTCGがありますが、「ヴァイスシュヴァルツ」に似たカードゲームは世界中のどこにもありません。 

いろんな作品のキャラクターが共演できて、それぞれのファンが好きなカードだけを集めて一緒に遊べるという、8年前に作ったこのシステムが革命でした。残念なのは、いまだにこのコンセプトを大きく超えるものが出てきていないことです。ブシロードの中から出てきて欲しいし、他社から出ても良い時期だと思います。10年に一度の発明だとすれば、そろそろかもしれませんね。 

カードゲーム業界も、これから1年くらいかけてタイトルが絞り込まれる予感があります。僕自身もまた新しいチャレンジをしていきます。言えないことも多いですが、「ファイブクロス」のリニューアルもそのひとつです。アナログのカードは出さずに、デジタルだけのカードゲームに生まれ変わります。アニメの放送に合わせてゲームはもちろん、CMなどの宣伝告知と連動出来るようにします。スマホを片手にテレビを見ている方が多いので、Twitterに感想をつぶやく感覚でデジタルカードゲームの「ファイブクロス」を始めてもらおう、という狙いですね。

話がそれますが、プロレス業界でも世界単一市場化の流れがあり、人気が復活したと言われる新日本プロレスにもまだまだ危機感があります。 
アメリカのWWEは興行収入や放送収入だけでなく、ネット配信の売り上げで伸びています。世界最強のプロレス企業が、全世界に同時に最高のエンターテインメントを届けているわけです。新日本プロレスもネット配信の会員を増やして世界に打って出ようとしていますが、のんびりしていたらWWEに追いつくことすらできません。 

WWEで新日本プロレスの映像を流したいという打診もありますが、それはライバル視されていないからです。新日本プロレスの映像を配信して特定の選手の人気が出ればその選手をWWEに引き抜けばいい、くらいに思っているかもしれない。実にわかりやすい構図です。

「MTG」やWWEといった最強のライバルにどう立ち向かうか? ファイトテーブルのような世界観や未来の提示も、そういった戦略のひとつです。 
自分たちが提供するエンターテインメントが受け入れられる環境を作るべきです。迫り来る大きな敵の動きばかり気にしていたら、後手に回って負けてしまいます。

ビジネスは戦争です。ブシロードはまだまだ小さな挑戦者です。年明けからの新規プロジェクトについて、11月17日の発表会でお話します。ぜひご期待ください。