コラム「木谷高明の視点」

第15回 「グローバル企業のあり方」

2014年09月09日

ブシロード社長の木谷です。8月5日にシンガポール現地法人に来て、早くも1か月が経ちました。

思ったほど日本法人の中がゆるんでいなくて、むしろ役員の間で会話が増えたそうです。前回にお話しした、私が不在にすることでの社内アップデートが進んでいます。

会議や書類の電子化も進みました。社内では「社長からメールで連絡が来た!」「スカイプがつながった!」と騒いでいるそうですが、これまで積極的に使っていなかっただけで、使えなかったわけではありませんよ。

さて、シンガポール法人での体感ですが、環境として非常に働きやすいです。スタッフはよく働いてくれていますし、15人くらいで仲良くまとまっていて見通しがいい。

実は、これまで出張で滞在して営業会議に参加しても、内容の5%くらいしかわからなかったんです。 でもこちらに来て2週間くらいしたら、2割くらいは理解できるようになりました。各担当者が何をやっているのか、何を知っているのかがわかったからなんですけど、社長としては、細かいことは2割くらい把握しているのがちょうどいいんですよね。

来て早々に、シンガポール内のカードゲームショップを6店舗、回りました。

結論から言うと、「ヴァンガード!!」が大人気。そういうお店を優先的に紹介してくれた可能性はありますが、もともと対戦テーブルのある店舗は20くらいしかなくて、あと2回で全部見て回れるくらいの市場なんです。「ヴァンガード」人気店をセレクトできる規模じゃないから、シンガポールで一定の支持を得ていることは間違いありません。

他社タイトルも見かけましたが、贔屓目でなくても、ブシロードほど力を入れて市場開拓しているところはないな、と実感しました。タイトルが少ない方がお店もユーザーも安定しますし、現地の購買力に対してちょうど良い規模と販売ペースに落ち着いている印象でした。

懸念としては、日本語版で遊ぶ人が多いんですよね。英語が母国語なんだから英語版で遊べばいいのに。一般的には英語版が親しまれていて、マニアは日本語版も持っている、という状態が理想なんですが、現状の比率は逆。英語版が盛り上がらないと、現地のディストリビューターが儲かりにくい。儲からなくてお店が撤退したら市場の広がりようがありません。

これは大きな課題ですね。

あと、インドネシアにも行きました。AFAというイベントの視察でいったんですが、
シンガポールともまた異なる事情、土地柄を感じました。
学校向けにサービスを提供している会社にカードゲーム文化を紹介したら、
「それもいいけど、独立戦争の英雄が出てくる、教育的なゲームはないか」という話になったんです。

でもエデュケーショナルなゲームって日本でも大ヒットはしにくいから、
その英雄をインドネシア限定のプロモーションカードにすることにしたんです。
「ヴァンガード!!」に歴史上の人物が入るのは初めてですよ。

学校向けのビジネスが得意な会社だからということもあると思いますが、この感覚は歴史的なものなんですね。
インドネシアは1940年代に独立する前の300年間、ずっと植民地だったんです。
インドネシアという国の単位ができたのはたった70年前。国民が共有している歴史が短い。

だから、インドネシアで多様な文化や人物、キャラクターの豊富なコンテンツを生み出すのは難しい。
そして、この土地柄は、植民地になっていないタイを除く東南アジア全般に通じるかもしれません。
だからこそ、日本のコンテンツ文化を柔軟に受け入れるのだとも思います。

来年前半までに、シンガポールをハブにしてインドネシア、東南アジアでの大型イベントを開催しようと考えています。

そして……ドイツにヨーロッパ現地法人を立ち上げることも考えています。

ヨーロッパはコストが高いんですが、ロンドンとデュッセルドルフを比べるとコストは半分で済みます。
デュッセルドルフはアナログゲームの見本市が開催されるエッセンにも近いので、
まずは小規模なボードゲームをシンガポール現地法人で開発・製造して、エッセンに持ち込む目算もあります。

企画する国、製造する国、マーケットになる国、そして拠点として納税する国。
海外進出するうえでは、土地柄にあわせて分業を考えなくてはいけない。
日本でやっていることをそっくりそのまま海外のどこかに移すような発想だと、
現地の文化や商習慣との軋轢でコストが増すだけではないでしょうか。

シンガポールでの1か月で視野は広がりましたが、グローバル企業としてのあり方を考え直すことにもなりました。
カードゲーム世界一の企業を目指す。これはブシロード創立の時に掲げた目標です。

いまや多業種に参入していますが、海外進出を本格的に進めるうえで、この目標を改めて意識しています。