コラム「木谷高明の視点」

第24回 「ストーリー性が大切な日本のエンタメと世界標準」

2016年03月04日

ブシロード社長の木谷です。

現在、円高株安が進んでいますが、それに関連して強い国の国債が買われていて、逆に新興国や南欧の国が売られています。 これはまさに最近のカードゲーム業界と同じ動きで、業界は世間の一歩先を行っていたようです。どんどん上位に集中して中位は保っているのが精いっぱいな状況で、そこから下はシェアを落としている。全体的にそういう流れになっているのはお客さんがより安心できるものを求めているということです。 ただカードゲーム市場はここにきて、前年のマーケットを上回り始めました。なぜそうなったのか。分析すると大きく分けて3つの要因があります。

1つ目はカードゲームというジャンルが、これまで継続的に一定水準のマーケット規模を保ってきたことです。歴史を重ねたことで回帰ユーザーが戻ってきています。 2つ目は、デジタル化・オンライン化が進むにつれて、その反動で世間のオフ会的なアナログ需要が高まってきたことです。一人で楽しめるものが増えた反動で、人と集まりたいという要求が生まれているようです。音楽ライブなどの観客動員数が増えているのもそうですよね。アナログカードゲームもその恩恵を受けているといえます。学校帰りに遊べる場所、コミュニティの場としてのカードゲームショップの存在感が大きくなってきています。 3つ目がデジタル・オンライン化の波にいち早く対応したことです。現在、エンタメ業界の売上げが軒並み落ちています。はっきり伸びているのはスマホゲームぐらいでしょうか。アニメなどのブルーレイディスクの売り上げもコンシューマーゲームも出版も、それぞれがじわじわと落ちはじめています。

じつはカードゲーム業界はデジタル&オンライン化の波を受けて、2012年春頃から売上げが落ち始めました。エンタメ業界の中でもいち早くダメージを受けました。ここもある意味、カードゲーム業界が他よりも先を行っていたと言えますね(笑)。そこから丸3年くらいかけて調整を続けながら、今年もう一度体力をつけて時代の波に乗りはじめました。 今回の上昇はこの3つの要因がそろっているので、簡単には終わらないだろうなと思っています。なだらかに3年から5年は伸び続けるはずです。もしかしたら数年後には末端マーケットで一千億円に再びチャレンジするところまで行くかもしれませんね。 現在、回帰ユーザーが増えている歴史のあるTCGに対して、ブシロードは“バリエーション”と“新規に立ち上げる力”で勝負しています。さまざまなタイプのゲームを展開していることと、新作の発売初期段階でたくさんのファンを作ることにおいての成功率が秀でています。今、エンターテイメントのコンテンツを成功させる難易度がものすごく上がっています。良いものを単純に見せるだけじゃダメで、そこに人の感情が入っていないとお客様に付いて来て頂けません。作り方、売り方、知らせ方、すべてにストーリーが必要な時代に、多くのお客様に響くストーリーを考えてそれを実行する。そこがブシロードのいちばんの強みですね。

話は変わりますが、最近エンタメ界はリメイクの時代に入りました。形をかえて今風にアレンジしたものがウケています。「スターウォーズ」の新作もしっかりヒットしていますね。 そして3月3日に発表がありましたが、「タイガーマスク」のアニメが復活します。新日本プロレスの選手はすべて実名で登場します。つまりアニメから入った人はプロレス会場に行くとアニメで見たレスラーの試合を実際に観戦出来るようになります。プロレスが2.5次元ミュージカルのような盛り上がりをみせたらうれしいですね。 少し前のお話になりますが、新日本プロレスの中邑真輔選手を含む4選手が退団して、米国のWWEと契約することになり、その際に日本のメディアはWWEが“メジャー”で新日本が“マイナー”といった書き方をしていました。マスコミのなかで“海外のほうが上”という見方が浸透しているようですが、コンテンツ自体にそういう上位概念を作られてしまうことはとても怖いことです。そうならないように、最初から世界を見据えながら、その中でこちらが上位概念になるという意気込みで“世界標準”を常に意識してコンテンツ展開をしないといけません。

「タイガーマスク」も海外進出をもちろん視野に入れています。世界中でこれだけプロレスが浸透しているのにアニメ作品はないんです。だから海外販売がうまくいくと見ています。アニメ制作はWWEにはできないことですからね。日本ならではのやり方で世界に打って出ようと思っています。 もちろんカードゲームでもそれは同じ。今年リリースする「Cardfight!! Online」は英語版のみでサービスを予定しています。さらにもうひとつお知らせしますと、今年、来年とブシロードは日本語版の新規TCGの発売予定はありません。現行のゲームを伸ばすと宣言します。でもシンガポール発で英語版のみの新作を出します。このように最初から世界標準のものを作って、日本のメーカーの力を見せつけるということも必要だと思っています。今年はイベントにもさらに力を入れて行く予定です。4月30日、5月1日の2日間は「大ヴァンガ祭×大バディ祭2016」、5月21日(土),22日(日)の2日間は「スクフェス感謝祭2016」、7月9日、10日にはシンガポールで「C3 CharaExpo2016」の開催が決定しております。

3つのイベントでは昨年の入場者数を大きく上回ることを目標に、みなさんがあっと驚くさまざまな企画を用意しています。さらに来年はブシロードが創業10周年を迎えます。世界に打って出るブシロードに、大いにご期待ください!