コラム「木谷高明の視点」

第19回 「人間を熱くさせるものは、人間」

2015年03月16日

ブシロード社長の木谷です。

発表のとおり、今年の6月にシンガポールで「CharaExpo2015」を開催します。
日本のエンターテインメントを、コンテンツとクリエイターの両面から発信するイベントです。
シンガポールでのイベントといえば、11月にAFA(Anime Festival Asia)がありますが、
6月のこの時期は世界的にも大きなアニメ・コミック系のイベントがないんです。

新日本プロレスリングも特別試合を組みますし、日本でもネットで中継されると思いますが、
ぜひ現地でアジアの熱気を体感してほしいですね。
出展企業様やステージイベントなどの詳細は続々と発表していきますので、ご期待ください。

実は、「CharaExpo2015」単体で考えれば、2000万~3000万円の赤字の可能性もあります。
出展者数、来場者数を増やして黒字イベントにするには数年かかるのかもしれません。
すでにあるイベントに参加するのではなく、0から立ち上げているのだから最初に痛みを受けるのは当然です。
すでにメーカーやライセンサー、代理店から問い合わせを多数いただき、出展社も40社程度集まっております。

やはりみなさん、日本のエンタメ業界にアジア向けの発信拠点が必要だと思っていたのではないでしょうか。
「ブシロードが何か始めた」「ここに乗っかろう」なんて面白がっているのかもしれません。大歓迎ですので、ぜひ乗っていただきたいですね。

「CharaExpo2015」は主幹事業部がシンガポール現地法人なんです。
広報宣伝部や経営企画部も関わっていますが、やはり現地のイベントなので現地法人に任せる部分が多くなっています。
現地法人は、どうしても日本から持ち込まれた案件のローカライズが主要業務になっていたので、このイベントにはテンション上がってますね。
「自分たちの仕事だ!」と思うと、やる気が違います。

盛り上がりが予想以上で、ブシロードグループ内での副次的な意義にもつながりました。

ブシロードでは、イベントでも商品企画でも、プロジェクトごとに主幹事業部が違います。
販促のスタートダッシュが重要になる場合は制作部ではなく営業部を主幹にしたり、
メディア戦略が鍵となるタイトルならば広報宣伝部が主体となることがあります。
部署間のコミュニケーションや良い意味での競争になりますし、やはり「自分たちのプロジェクトだ」と思えば、より一生懸命に取り組める。

さらに、プロジェクトのリーダーは管理職とは限りません。
通常業務は役職に沿った指揮系統が働きますが、プロジェクトによっては若手がリーダーとなる独自の指揮系統で動かすこともあります。
そのプロジェクトを動かすのに最適なフォーメーションであれば、役職や年次は関係ないと私は考えています。

プロジェクトが一段落したら、また通常のフォーメーションに戻りますし、うまく行けば課として独立させることもあるでしょう。
そのために、私を含めた役員は、誰がどんな仕事をどうやっているのか、できるのか、性格や嗜好などまでしっかり見極めなくてはいけません。
プロデューサータイプやクリエイタータイプの人間は、日常業務や事務手続きが異様に苦手だったりします。
私もそういう面があるので気持ちはすごくわかります。企画を当てることを24時間365日考えているから、休みとか区切りとかがないんです。

しかし会社の事務作業は1週間1か月なりサイクルがありますし、勤務時間も区切られています。
プロデューサー・クリエイタータイプの人間は、そのことに意味を見出せなかったり、苦手意識をもってしまうようです。

ですから、事務スキルで見れば多少劣っている社員でも、こういったプロジェクトのこのポジションで活きるんじゃないか、という多面的な目でスタッフを見ています。

少し話がそれますが、今回はもうひとつ。

KADOKAWA・ドワンゴがグループSNE開発の新作カードゲーム「ドレッドノート」を発表されましたよね。
このような賞金制のカードゲームを始めることは、非常に興味深いです。
これには対戦ゲームのライブイベント「ニコニコ闘会議」や将棋の「電王戦」、ネットのゲームプレイ実況、国際的に認知が高まっているe-スポーツなどの流行が根本にあると思います。
賞金制カードゲームである必然性はe-スポーツを意識しているからでしょう。とにかく、成功する可能性があると私は思います。
ブシロードが提供している、コミュニケーション重視のカードゲーム文化とは別の道ですが、
プロカードゲーマーの存在は「人間が真剣勝負する」熱気と興奮を発信するでしょう。

コンテンツやメディアがデジタルになり、軽やかにネットに乗る時代ですが、
人間の、アナログな動きや熱気の魅力・価値は最後まで残ります。
カードゲームも遊ぶ上ではデジタル化できる部分がありつつ、やはり生身のプレイヤーが真剣に勝負している、楽しんでいる様子も魅力ですよね。

ブシロードでも、デジタル・グローバル時代のプロジェクトを進めていますが、
カードゲームにおいてはアナログの付加価値を見直すことも重要だと考えます。
デジタルとアナログのどちらかに振り切るのではなく、両方の特性を活かさなくては、どこかしか魅力が抜け落ちてしまうのではないか。

事業としてデジタル分野は欠かせない市場ですが、なんでもデジタルに、スマートにすればいいものではない……。現在はそう考えています。